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2009年10月から約1年間にわたり、毎日新聞誌上で吉本ばななさんの連載小説「もしもし下北沢」の挿画を描かせて頂きました。1年間なので約50枚の絵が毎週誌面にカラーで掲載されるという大役で、私はこの連載のために自分も下北沢に越した、という人生の転換点となったお仕事でした。
連載だけにとどまらず、単行本発行後、原画展が開催され、グッズやポスターが作られ、下北ピュアロードでサイン会を兼ねたフリマイベントが開かれ、海外でも出版され…もしもし下北沢の世界はどんどん広がり、ばななさんとたくさんご一緒させて頂けて本当に思い出深いです。(写真は祥伝社発行の「Feel Love」のVol11&12で、ばななさん特集が組まれた時の誌面です)
今もよく当時を思い出しては、湧き上がるような力をもらっています。ばななさんから最初にメールを頂いた日のこと。たくさんのあたらしい出会いがありました。そして時間が眩暈がするくらい、濃い密度になる瞬間が何度もありました。この打ち上げ花火みたいな瞬間を人生の中で繰り返し思い出すんだろうなあ、とその度に思っていました。過去に流れていっても、決して上書きされることはないそのたくさんの花火の記憶を糧に、生きていくんだろうと。それはフリマのことだけではなくて、結局は自分の中のエネルギーをどれだけの真剣さで燃やせているかということなんだと思う。そのときだけでいい、いまだけでいい、もう他の全てはいらない、と思えるほどの迷いのなさで。
時間はどんどん過ぎて、楽しいこと、嬉しいこと、辛いこと、大変なこと、全部ただただ、淡々と降り積もって、自分を形作る一部になっていく。何もかもあっという間に過去に流れていって、目の前にあるものに対応するので精一杯で、過ぎたものについてあまり考えなくなったり、忘れたりもする。でもその中に振り切れるまで頑張った、と言える時間がちょっとでもあれば、いつかスパッと自分の人生の断面をきりとって眺めたとき、そこにある年輪の強弱を眺めて、うまくいったことも、失敗したことも、「この時はこうだったな」ってきっとたくさん、笑える。
単行本ではたくさんのカラー画を載せることはできなかったのですが、今でも電子書籍ではギャラリーで連載時の挿画みることができますので、ぜひ見て頂けたら嬉しいです。
その後2012年に発売になった文庫本版にもまた新しく絵を描き下ろしました。